【医学部志望者必見!?】面白くて眠れなくなる解剖学

『面白くて眠れなくなる解剖学』(坂井建雄/PHP研究所)

ストレスや飲み過ぎ食べ過ぎで胃が痛くなる人は少なくないと思うが、内臓自体には痛覚神経が無いそうだ。じゃあ、どうして痛みを感じるのかといえば近くを通っている知覚神経が異常を検知して、代わりに脳に伝達しているという。

それはつまり、必ずしも痛む部位が悪くなっているとは限らないということで、頭痛がするからといって頭が悪いわけではない。いや、これはたとえとして不適当か。

とにかく、痛む場所については錯誤をしやすく、肩の痛みが心筋梗塞だったり肺炎だったりということがあり、腰痛だと思っていたら肝臓ガンというケースもあるため、市販の鎮痛薬に頼っていると大病を見逃しかねない。

そこで、より体の仕組みを知っておいたほうが良いだろうと、読んでみたのが『面白くて眠れなくなる解剖学』(坂井建雄/PHP研究所)である。

勢い込んで読み始めてみると、面白くて眠れなくなる前に、怖くて眠れなくなりそうだった。

私はスプラッター系のホラー作品が苦手なのに、医学生の解剖学習の解説から入るのだ。

遺体の保存処理の仕方やら、頭蓋骨の周りを電気鋸で切って脳を取り出す方法などを詳細に教えてくれる。

とはいえ、解剖学習のために提供される遺体は、生前に医療により救われた人たちが恩返しとして献体となることを申し出ることが多いそうで、医学生たちが人間の命への敬意と科学的な知識を得ていく過程を知ると、普段自分が病院で受ける診察や治療も、その故人の恩恵を受けているのだと感謝の念を抱かずにはいられない。

面白く感じ始めたのは「解剖学の歴史」の章からで、メソポタミアには紀元前1100年頃の粘土板に医療の記録があり、文献としては最古の医学書と考えられるのだとか。

そして、2世紀の古代ローマにおいて動物の解剖を行ない多くの著書を残したガレノスという医学者が医師の間では崇拝され、その後の時代に動物のみならず人間の解剖も行なわれるようになったものの、ガレノスの書き記した内容と人間とで体の構造が違うことについては、「書物が正しくて、人間のほうが間違っていると考えた」のだとか。

そこへ警鐘を鳴らしたのが16世紀に現れた薬剤師のヴェサリウスで、著者によれば現代でも通用する正確かつ芸術的な解剖図が出版されたという。

ただし、保守的な解剖学者たちからは激しい攻撃に遭ったらしく、なにやら似た話があったなと思ったら、コペルニクスが地動説を唱えたのが同じ時期だった。コペルニクスが天文学者であるのと同時に、医師でもあったことを考えると、この偶然も面白い。

もっともページ数の多い「解剖学から見た人間のカタチ」の章ともなると、本書の最初に「人体は神秘に満ちた小宇宙」と記されていた理由が良く分かる。

一般に心臓は左寄りにあるが、そうなると左右の肺は同じ大きさではなく左側が小さくならざるをえない。

そして、右側の肺が三つに分かれているのに対して左側は二つに分かれており、これは一つの塊だと形が大きく変化して歪みが生じてしまうのを防ぐためなのだとか。

内臓の左右の違いは他にもあり、腎臓は左右で高さが違っていて、右側に肝臓があるためその分だけ右の腎臓は下がっているという。

そんな巧妙な造りなのにもかかわらず、成人で約6メートルはある小腸の方はというと、“いい加減”にお腹に収まっているうえ、なんと「自由に動ける」のだとか。

秩序だっているようでいながら、ゆるい造りにもなっている人体の不思議に感心するばかりである。

本書は確かに面白く、実際の解剖の手順や歴史なども含めて体の地図の探検を愉しめた。ただ、体の仕組みを学んで、自分の健康に役立てようという当初の目論見は外れてしまった。

これは、付け焼き刃の知識で体の異常に対処するのではなく、大事に至る前に病院を受診しておきなさいという神秘の力が働いたのかもしれない。

 

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